辞める理由
令和4年2月
医療・介護の分野は慢性的に人手不足である。やっと応募してきても、すぐに辞める人がいる。最近、事務職員を採用したら2~3日で辞めた。
次に看護師が来たが1日で来なくなった。こうなると採用した人事担当者や事務長は頭が痛くなる。いやもう呆れてものが言えない。それも今時の若者ではない、分別のある年ごろだからよけいその気持ちがわからない。
でも、本人は辞めることを選択する尤もな理由がある筈である。採用した側は長く居て欲しいがどうにもならない。職員が辞めたいというと引き止める為に子細にその理由を訊き真剣に相談に乗った。
だが、私の切なる気持ちを伝えて、いくら譲歩しても辞意を翻した者は殆どいない。辞めたいと言った時点でもう動かしがたい心境になっている。
私はことあるごとに「職場を辞めたくなったら、決める前にまず相談しろ」というけれども、本当に相談した者は皆無である。「ご相談があります」といって来た時点で、すでに相談ではなく、辞意宣言なのである。
大事にしていた職員、特にうちで育てた看護師が辞めた時など、あれもしてやった、これもしてやったのにと相手にとっては恩着せがましいことばかり思い出してくやしがった。
やがて本当に辞めたい理由を上司にいう人などいないということがわかってきた。本当の理由は何だろう。ある時、それを問いつめたらこういわれた。
「正直にいえば先生が尊敬できないから辞めます」私は沈黙した。真実はまさに劇薬である。辞表とは私に反省をうながす通知表なのだ。
以後、理由を質さず、他の職場に行っても幸せになるよう念じることにしている。