専門医の診療
令和5年10月
この頃の若い医師は外来患者を断る傾向がある。いわゆる専門外は診ないという方針である。その理由を推し量ると二つある。一つは自分は専門外の患者を診る経験や能力に乏しいから専門医に回して診てもらう方が患者の為になるという良心的な立場から。もう一つは万一自分の診療に落ち度があって訴えられては困るという保身的な考えであろう。私の修業時代、もう60年以上も前の話だが、外科は全ての臓器の手術を引き受けていた。有名な中山恒明教授の外科卒業試験は全員教室に集めて口頭試問をした。頭部外傷にはじまり、足指の脱疽で終わる広範囲の病気を1日かけて学生に質問し、出来なければ教えてくれたものだった。整形外科も出来たばかりで、大学以外は皆一般外科が骨折の手術をやっていた。脳外科・心臓外科・肺外科・小児外科・乳腺外科などと分かれたのは、老生にとってはつい最近の出来事のように思える。今から55年前、三枝病院を開業して以来、小児科(特に乳幼児)以外は断らずに診療し、手術は消化器外科以外広範に及んだ。骨折の観血療法は勿論、甲状腺・乳腺・腎臓・尿管結石まで当院で手術をした。当時の先輩外科医はこれらの手術の経験豊富で直接指導してもらって私も覚えたものである。今は専門が分かれてそれだけに高度な技術を身につけただろうが、専門外には目もくれないのは、患者にとって困る場合が多い。時間外や休日当番医の場合はともかく診る。一日様子を見ても大過ないかぐらい判断してもらいたいが如何なものであろうか。患者も専門外医師に寛容であってほしい。今に老人と聞いただけで断られないように、老人専門医が出来ないことを願っている。